2.ホップをビールに使う
◆ビールの香りと苦味の正体
ホップの毬花をコーンと言います。一見花のようにも見えますが、実は花では
ありません。それが証拠にコーンの先からも蔓が出ているものがあります。
7月初旬コーンの若芽 |
7月下旬のコーン |
11月下旬/最後の収穫 |
右の写真がコーンです。これを"Oast"と称する乾燥器で乾燥させたものをビールに使います | 左の写真のヒラヒラは花びらではなく、blacteolesと言うものです。その裏側に沢山の黄色粉が見えますが、これはルプリンと言い、まさにこのルプリンの中に香り(アロマ)と苦味(ビター)と風味(フレーバー)の元となる、エッセンシャルオイルと樹脂成分が入っています。ではそれらの正体は? | |
ルプリンはコーン全体の16%程度と言われています。ルプリンの成分はエッセンシャルオイルとソフトレジン(樹脂)とハードレジンからできています。このエッセンシャルオイルは複雑な成分からできていますが、これらがアロマ等の元となります。勿論、ルプリン以外が84%もありますのでウォート中で種々の化学反応が生じアロマにある程度影響するはずですが、成分としてはセルロース、リグニン、水分、ミネラル、たんぱく質、ポリフェノール、脂質、ワックス、ペクチン、モノサッカライド、アミノ酸等のため影響は小さいと考えられています。一方、ルプリンの成分はずばりアロマ、フレーバー、ビターに強く関与します。エッセンシャルオイルはアロマそのものを作り出します。香り(アロマ)は揮発成分が多いので、基本的には新鮮なホップほど強いものです。 (ビアスタイルによっては故意にエージングしたホップを使用するものもありますが) また揮発成分は当然、長時間ウォートに入れて煮沸するとその成分は消失してしまいます。だからアロマ付けにホップを使う場合はできるだけ熱の影響のない後半のプロセスで使用します。一方、苦味はオイルではなくレジンの構成物質であるα酸やβ酸が活躍します。特にα酸が主体的に作用します。このα酸はホップの品種によって含有量に差があります。ビタータイプにしたい場合は、α酸の含有量の多いホップを使用します。また、α酸は冷たいウォートには溶解せず、熱いウォートにだけ溶解します。そしてウォート内でイソα酸に変化し苦味成分になります。従って、苦味付(ビターリング)にホップを使用する場合はアロマ付けとは正反対に長時間ウォートに漬け込みます。また、β酸はそれ自身には苦味がないのですが、酸化されると苦味成分となります。従って、古びて酸化の進んだホップを使うとβ酸からの苦味がでます。ご参考までに下にこれらの酸の構造式と名前を示します。 | ||
◆ビール作りでのホップの使い方
上で説明したエッセンシャルオイルとα酸の性質から、アロマ(香り)付け、苦味(ビター)付け、
フレーバー(風味)付けのそれぞれに応じてホップを用いるプロセスを変える必要があります。
(下表はアロマ重視の順です)
プロセス | 方法 | アロマ | フレーバー | ビター リング |
ドライ ホッピング |
発酵終了直前の状態に直接ホップを加える。アロマ付けにはとても有効だが、加熱工程を経ないため感染の懸念があります。極力発酵終了時点で加えるべきでしょう | 非常に強い | ほとんどなし | なし |
ホップティー | 湯にホップを浸漬した液(ホップティー)を発酵容器に加える | かなり強い | ほとんどなし | なし |
ホップバック | ストレイナーにホップを入れそこにウォートを通す (茶濾しの要領) |
強い | ほとんどなし | なし |
フィニッシング | 煮沸終了5分前にウォートに添加 | ミディアム | マイルド | 弱い |
フレーバー | 5~15分ウォート内で煮沸 | ほとんどなし | 強い | マイルド |
ビターリング | 30分以上ウォート内で煮沸 | なし | ほとんどなし | 強い |